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広島大学ダイバーシティ研究センター

性についてみなさんに知ってほしいこと ―― いろいろな人がいて、いろいろな性がある

 広島大学では、2020年4月から「性の多様性に関する理念と対応ガイドライン――LGBT等の学生の修学のために」を施行し、 2023年4月には教職員を含めた「性の多様性に関する理念と対応ガイドライン―LGBT等の学生と教職員を包摂するキャンパスを目指して―」に改訂しています(https://momiji.hiroshima-u.ac.jp/momiji-top/learning/post_16.html)。当センターは、アクセシビリティセンター、保健管理センター、ハラスメント相談室と協力して、原案を作成しました。広島大学はこの理念とガイドラインによって、一人ひとりが自分の性のありようを認められ、安心して大学の活動に参加できるような環境を作ろうとしています。

 ただし、「性の多様性」と言われても、人は男女にきれいに分かれると感じる人も多いでしょう。性の問題はごく一部のLGBTの人の問題で、大半の人は自分事として考えにくいかもしれません。

 ではここで、自分の性について考えてみましょう。
 あなたの性別はなんでしょうか。ではなぜあなたは、自分がその性別だと認識するのでしょうか。また、あなたはどんなときに自分の性を意識しますか。
 人によって答えはいろいろでしょう。性器が女性器。声が低い。女性にドキドキする。スカートをはいて化粧をする。男性として扱われてきた。女友だちと恋バナで盛り上がる。男性と2人っきりでいると付き合っていると誤解される。などなど。

 こうしてみると、性にはさまざまな側面があるようです。2017年に定められた「ジョクジャカルタ原則+10」は、性を4つの側面からとらえ、それらは一人ひとりの尊厳と人間性に深くかかわると定めました。4つの側面とはすなわち、

  • 性自認=自分がどのような性である(あるいは性でない)と認識しているか。
  • 性指向=自分がどのような性に惹かれるか(あるいは惹かれないか)
  • 性表現=自分が性的にどのような見かけやふるまいを好むか(あるいは好まないか)
  • 身体の性的特徴=自分の身体が性的にどのような状態であるか(あるいはないか)

です。

 これらの4つの側面は、いずれも男女に二分されるのではなく、グラデーションになっていると言われています。性自認でいうと、自分が男女どちらの性別なのかはっきりしない人もいれば(Xジェンダー)、性別がないと感じる人もいます(アジェンダ―)。性指向では、両方の性別に惹かれる人もいれば(バイセクシュアル)、相手の性別にこだわらず惹かれる人もいます(パンセクシュアル)。性的な意味では人に惹かれることがない人もいます(アセクシュアル)。ときめきと欲望が異なる性別に向く人もいます。身体的には、外見では女性の体を持っているのに、染色体はXYで、内性器が男性の人もいます。女性でもホルモンバランスが乱れると、ひげが生えることがあります。

 広島大学の卒業生の樹(たつき)さんの話を聞いてみましょう。樹さんは自分の性をオープンにして、在学中から活動していました。ガイドラインの案作りにも参加してくれ、リーフレット「性の多様性を知ろう」もデザインしてくれました。

自分の性別の在り方を4つの側面から説明すると、以下のようになります。

  • 性自認…「どちらでもない」という認識が一番強いが、少し男性的である自覚と、「絶対に女性ではない」という確信がある。男性寄りのXジェンダー、あるいはアジェンダー。
  • 性指向…結果的に世間的に「男性的」とされる特徴を持つ人に惹かれる傾向があるが、他者への好意を考えるときに性別を全く重要視していないパンセクシュアル
  • 性表現…「かっこいい」ものが良い、一人称は「俺・僕」。「私」を使えるようになるまで非常に訓練が必要だった。
  • 身体の性的特徴…子宮が有り、ペニスはない。

一方で「結果として他者から見えるところに現れている樹の性に関わる要素」を説明すると、以下のようになります。

  • 現在の一番の趣味は男性アイドルを応援すること。
  • 他の主な趣味は、「宇宙戦艦ヤマトシリーズ」作品を鑑賞することと、呉の海上自衛隊基地や大和ミュージアムを見学しに行くこと。
  • かしこまった場でもとっさに「私」と言えず、「自分」と言ってしまうことがある。
  • シスジェンダー男性と法律婚をしており、戸籍上は「妻」。
  • パートナーとの続柄を聞かれたときに「妻」と自称できない。しない。
  • 女性用トイレを使用してトラブルになったこともあれば、男性用トイレを使用してトラブルになったことも、多目的トイレを使用してトラブルになったこともある。逆に、女性用トイレも男性用トイレも多目的トイレも、どれも問題なく使えたこともある。

等々。

なるべく端的に「樹の性のあり方」を説明すると「トランスジェンダー・パンセクシュアル」となりますが、これだけではどこか自分を表しきれていない気がします。

「男か女か」「性自認と身体の性的特徴が、一致するかしないか」…など、性を4つの側面に分解しても「AかBか」では自分でも説明しきれないのです。

 いくつかの例を挙げてきました。これらの例から、私たちの性は男女にきっちりと二分されるのではなく、たとえば社会的に同じ男性カテゴリーに分類されている人たちのあいだでも、性のありようはいろいろだと推測されます。あなた自身を探ってみれば、男らしい要素、女らしい要素、どちらともいえない要素が、交じり合っているのではないでしょうか。そういったすべての要素はあなたにとって大切です。それらを尊重しあえる社会をみなで作っていきませんか。